京野菜や加賀野菜など、全国には地域名を冠した伝統野菜がたくさんあります。私はこれらの伝統野菜は、「おいしい」「からだにいい」などの優れた遺伝子が長い栽培を経て選抜・保存されたものであると考えました。さらに、伝統野菜の中のアブラナ科の植物は、硫黄化合物の含有量が多いという点にも着目しました。硫黄とその化合物は体にいいとされるニンニクにも多く含まれ、生体毒物の解毒機能にも関係するなど、健康との関わりが深い成分でもあります。そこで私はアブラナ科伝統野菜を対象とし、植物の硫黄吸収・代謝に関する各種研究に取り組み、著しく硫黄含量が高い品種を発見しました。硫黄は植物に必須の栄養素であるだけに、研究が進めば、新しい機能性食品の開発はもちろん、生命の起源や進化を知る上で画期的な発見につながるかも知れません。
少しでも植物のすばらしさに興味を持ってもらいたいという伊藤先生。講義の進め方としては、ただの事実を教えるだけではなく、どのような実験の積み重ねで、この事実が判明したかという経緯も説明。学生に追体験させることで、研究の面白さや考察の大切さが理解できるよう心がけているそうです。卒研などの指導では、この実験で何が起こっているのか、この研究で何がわかるのかということを一緒に考えるようにしています。研究の目的や着地点が理解できると、学生のモチベーションも必ず違ってくるといいます。
植物の持っている能力を理解し貸してもらい、合理的に人間の生活を豊かにしようというのが、植物栄養学の立ち位置です。ぜひ、植物の能力を垣間見る研究を一緒に行ってみませんか。
東京農工大学農学部生物生産学科卒業、東京農工大学連合農学研究科生物生産学専攻修士修了、同博士修了、東京農工大学農学教育部・農学部技能補佐員、独立行政法人農業環境技術研究所特別研究員、東京農工大学農学府・農学部産学官連携研究員、日本大学生物資源科学部准教授。博士(農学)。