「いいね!」と共感したくなる
デザイン×まちづくりの可能性とは?

フォトジェニックな街並みや映えスポットに来ると、
思わず写真を撮りたくなる。
そんな方も多いのではないでしょうか。
こうした場所の多くには、実はデザインの力が活かされています。
そしてデザインの力は、「まちづくり」でも注目されています。
デザイナーの南雲先生は、
駅・橋梁といった公共スペースや施設のデザインを、
地域の素材であるスギなどを使いながら、日本各地で手掛けてきました。
デザインの役目とは「地域の記憶」を刻むこと――。
そう語る南雲先生に、
デザインと、まちづくりの可能性についてお話を伺いました。

PROFILE

國學院大學 観光まちづくり学部教授(特別専任)

南雲 勝志

デザイナー。新潟県六日町(現・南魚沼市)生まれ。景観や公共施設のデザインをはじめ、家具、インテリア、照明、プロダクトデザインなど多岐にわたる領域で活動し、まちづくりにおけるデザインの可能性を探る。土木学会デザイン賞 最優秀賞、グッドデザイン賞金賞など、受賞歴多数。2022年より現職。

デザイナー。新潟県六日町(現・南魚沼市)生まれ。景観や公共施設のデザインをはじめ、家具、インテリア、照明、プロダクトデザインなど多岐にわたる領域で活動し、まちづくりにおけるデザインの可能性を探る。土木学会デザイン賞 最優秀賞、グッドデザイン賞金賞など、受賞歴多数。2022年より現職。

日本中どこにでもある木が秘める、
「地域らしさ」という魅力。

皆さんは、ヒノキ科スギ属の「スギ」が日本固有の樹木であることをご存じでしょうか。そもそもスギは縄文時代から日本の暮らしを支え、文化をつくってきました。私はスギに魅せられ、かれこれ20年以上スギという素材と向き合っています。

日本全国どこにでもあるスギですが、産地によって多種多様な特色があります。例えば、天然秋田スギが持つ細かい年輪と薄桃色の美しさ。これは寒冷地の厳しい環境に耐えながらゆっくりと育ってきたからこそ、生まれるものです。

一方、日照時間が長く温暖な宮崎県で、猛スピードで育つ飫肥(おび)スギは、木目の美しさでは劣るものの、油分が多いことから江戸時代には弁甲材(木造船に使用する木材)として重宝されてきました。

このようにスギは、地域ごとの魅力にあふれた素材です。そんなスギ材を活用したまちづくり「上崎橋プロジェクト」を紹介しましょう。

地域住民を巻き込んだ
「上崎橋プロジェクト」。

宮崎県延岡市の上崎地区で、地域住民や学生たちと一緒に取り組んだのが「上崎橋プロジェクト」(2004~2005年)です。

一級河川・五ケ瀬川が流れ、山々に囲まれた上崎地区は、まさに陸の孤島といえる地域。25世帯、約80人が暮らす小さな集落です。そんな上崎地区と、対岸の国道とを結ぶ全長約200メートルのアーチ橋「上崎橋」の建設が決まりました。
橋の建設は、地域住民にとっては何十年にも及ぶ悲願でした。しかし公共事業ですから当然、「橋は行政がつくるもの…」という意識が強く、地域の人々たちが率先して橋づくりに関わる雰囲気は、さほどありませんでした。しかし、発注者である宮崎県からは、「地域の記憶に残る仕掛けをこの橋に加えて、地元の人々から愛される橋にして欲しい」と、依頼されました。そこで私は、橋づくりに地域住民も参加してもらい、まちづくりにつなげたいと考えました。

宮崎県は、スギの生産量で30年連続日本一を誇ります※。なかでも五ケ瀬川流域は林業が盛んで、上崎地区にも良質のスギが豊富にあります。住民参加への足掛かりとして、私にはあるアイデアがありました。それは、最も人の手に触れる橋の「手すり」と、橋のゲートとも言える「親柱」の2ケ所に、地域の人々から寄付してもらったスギを使うこと。さらにそのスギのメンテナンスを通じて、地域の人々が橋を守りつづけること。そうすることで、「スギの生産量日本一」から、「スギの使い方日本一」へと、変えたかったのです。

※農林水産省「木材統計」(2020年)

地域住民も、学生も、皆がひとつに!

毎年秋に、地域住民総出で行うメンテナンスの様子。人々が守り続けることで、より愛着のある橋に。

当初は、多くの人が難色を示しました。私は一人ひとりと膝を突き合わせて話すことで、地域の人々に橋づくりに参加する意義を理解してもらいました。そして橋に使うために、地域にあるスギの寄付を呼び掛けて、プロジェクトの参加者を募りました。地元の大学で学ぶ学生たちにも声を掛け、こうして集まった総勢50人余りで、「上崎橋プロジェクト」が本格始動したのです。

伐採作業も参加者総出で行いました。多くがチェーンソーを持つのも、使うのも初めてです。地元の山のプロである山師(山林の伐採をする人)の方に手本を見せてもらうと、鳴り響く轟音と激しい振動、勢いよく飛び散るスギの粉塵に、最初は皆がおじけづきました。それとともに、伐採されたスギがたたえる神々しさを前に、木に対する深い敬愛の念も抱くようになりました。

無事に伐採を終えると、次は切り倒したスギの運搬作業です。ここで若い大学生たちが大活躍してくれました。そして学生たちが汗だくになって懸命に運ぶ姿をみて、地域のご年配の方々も、心から喜んでくれたんです。

伐採・運搬されたスギ材は手すりと親柱に加工され、最後は皆で手分けして橋に取り付けました。こうして自分たちの力でつくった、地域の誇りとなる橋が完成し、上崎橋は2005年11月に開通しました。

地域とともに育ち続ける、
プロジェクトのかたち。

「上崎橋プロジェクト」は取り付けて終わりではなく、後日談があります。

手すりの研磨、オイルかけなどのメンテナンスを、完成から20年近く経ったいまも当初の約束通り、地域の方々がやってくださっているのです。毎年、丁寧に手入れされた手すりと親柱には、年月を重ねた木材ならではの味わいが出てきました。メンテナンスは秋の恒例行事となり、メンテナンス後のイベントで橋の河川敷に菜の花の種を蒔くように。そして春になると、美しいアーチ橋のたもと一面に満開の菜の花が咲き誇り、地域の「ちょっとした観光スポット」として、近隣からも多くの見学客が訪れるようになったのです。

プロジェクトは、上崎地区にしかない「地域の記憶」として刻まれ、誇りとなり、地域の人々とともに育ちながら現在も進行中なのです。

スギをはじめとする地域の素材は、その村を、まちを見る鑑(かがみ)でもあります。加えてこれを人々が「いいね!」と思えるものに仕上げるには、デザインの力が欠かせません。今回のような橋づくりにおいても、デザインによって美しく見せる工夫や、地域の人々に楽しんで参加してもらうための仕掛けをプロデュースすることが大切なのです。それらが人々の共感を呼び、地域の外からもたくさんの人々を呼び込むための「まちづくり」につながるのではないでしょうか。

これから観光まちづくり学部で学ぶ皆さんも、デザインをはじめ、さまざまな「まちづくり」の手法とその可能性を、探ってほしいと思います。

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