建物を建てるだけじゃない。
まちづくりの領域。
岸本さん
まず今回の再開発はなぜ始まったのでしょうか?
黒瀬さん
直接のきっかけは、2000年代に入り東京メトロ副都心線と東急東横線の相互直通運転とそれに伴う東横線渋谷駅から代官山駅にかけての地下化が決まったことでした。
当時から渋谷は独自のカルチャーを持つ街として世界に知られていて、そうした発信力や先進性は最大の強みですが、一方で課題を多く抱えていたのも事実です。乗り入れ路線増加に伴う駅構内の複雑化、ハチ公前広場の混雑、谷底地形による浸水などの安全面といった「様々な課題をいかに解決し、強みを活かしてより魅力的な街にしていくか」。それが開発の大きな目的になっています。
そこで私たちが掲げたコンセプトが「エンタテイメントシティSHIBUYA」です。カルチャーが根付いた街として単に文化や芸術を発信するだけでなく、快適性や安全性にも優れたエンターテイン=おもてなしが可能な、多様な人が集まる街にしたいと考えています。
藤岡さん
でも人が集まるとオーバーツーリズム※などの問題もありますよね。
例えば京都では市営地下鉄とバスの1日乗車券を発行したところ、観光客が増えて、地元の方がバスに乗れないという問題も起こりました。
※オーバーツーリズム:観光客の増加による混雑で住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼす状態。世界的な社会問題にもなっている。
山中さん
「観光まちづくり学部」って聞くと都市計画というかハードのまちづくりのイメージがあったけど、ソフトという面からまちづくりを捉えてもいるんですね。
岸本さん
はい。統計やデータ分析などもするのですが、観光って社会情勢とかいろんなことが関わって、実は全部つながっていたり本当に単純じゃないなって感じています。
山中さん
その通りで、街によって課題も違うから、「これをやれば良い」という決まったものは全くないんです。
岸本さん
渋谷にはどのような課題があり、どんなことに注力されてきたのでしょうか。
山中さん
多くの人が集まる街だからこそ、駅周辺にエレベーターやエスカレーター、歩行者デッキ、広場を設けるなど、動線の整備には力を入れてきました。
それから街の案内表示などに統一的なガイドラインをつくり、どこにいても確実に目的地に辿り着けるようにしたり、駅周辺のどのビルでも同じWi-Fi IDを使用できるようにするなど、渋谷で快適に過ごしてもらえるための工夫にも幅広く取り組んでいます。
最近ではスタートアップ企業が増えているので、シェアオフィスや交流の場を増やしたりといった企業誘致の仕組みづくりもしています。
藤岡さん
まちづくりと言っても本当にいろんなことをやっているんですね。
黒瀬さん
街の持つ魅力、集まる人の傾向、街に足りない機能を考えながら、ある意味なんでもやるのが私たちの仕事ですね。
まちづくりにおいて
最も大切なもの。
資料提供:東急株式会社
( 開発イメージは今後の検討により変更の可能性があります。)
黒瀬さん
大学生の二人にとって、渋谷はどんな街ですか?
岸本さん
「最先端」というイメージ。混沌としているけど、それは同時に「多様性」を受け入れられる寛容な街なのかなとも感じます。國學院大學は「渋谷」と東急沿線の「たまプラーザ」にキャンパスがあって、観光まちづくり学部は「たまプラーザキャンパス」なんですが、友達と出かける時は渋谷に来ることは多いです。
藤岡さん
私は混雑する場所が苦手で、特に用事がなければ利用していないんです。
黒瀬さん
私たちは藤岡さんのように「利用しない人」「興味のない人の意見」も重要だと思っていて、そういう方にこそ、行ってみたいと思ってもらえる渋谷にしていかなければいけません。そのためには、「新宿」や「池袋」など他の街との差別化が必要だと考えています。
もうひとつ重要なのは、「渋谷に行けば何か新しい発見がある」と思ってもらえるようにすること。渋谷って面白い街で、スクランブル交差点を歩く人たちを見ていても、この街で働いている人なのか、暮らしている人なのか、遊びに来た人なのかの見分けがつかない。でも、それこそ岸本さんが話してくれたような多様性の街ならではの光景だと思うんですよね。これだけいろんな人が集まる街だからこそ、行けば必ず新しいモノや面白いコトに出会えるという情報発信地としての魅力をさらに高めるためのまちづくりを考えていきたいと思います。
岸本さん
私は物心ついた頃から開発で工事中の渋谷しか見ていないので、一体いつ完成するのかな? と気になっているのですが...
黒瀬さん
渋谷駅周辺の開発で現在進めているものは2027年度の完成を目標にしてます。開発のために鉄道や人の流れを止めるわけにはいかないのでどうしても時間がかかってしまうんですが、JR渋谷駅直上に新しいビルができ、ハチ公前の広場もガラリと変わりますよ。
藤岡さん
観光というと授業の中でも「歴史的な建造物」や「保存地区」などについても学ぶのですが、「渋谷」は海外の方から見ても有名な観光地のひとつなのに、「京都」や「浅草」のような「歴史」でもなく、「買い物の街」でもない。「新しさ」「楽しさ」などで沢山の人を惹きつけ続けているのはすごいことだと思います。これだけの大都市のまちづくりをするにあたって、大切にされていることはありますか?
山中さん
渋谷を拠点にまちづくりをする企業として、地域に根ざすということはとても重視しています。「地域の方々とは一生のお付き合い」となるわけで、一緒に歩むことができなければ、まちづくりの成功はあり得ません。観光や買い物に訪れる方、働いている方だけでなく、駅から少し離れると松濤などの住宅地もありますし、渋谷で生まれ育ったという方も結構いらっしゃるんです。次の時代に向けて、そうした「渋谷愛」のある方々を増やしていくことはとても重要で、住宅機能の充実も今後の課題のひとつだと考えています。10年、50年、100年先も見据えながら街を育てていくという視点も、まちづくりを進める上では大切なことなんです。
岸本さん
「渋谷」のような世界的な都市においても、地域の方々との共生は本当に大事なものなんですね。
これからの観光と
まちづくりの将来性。
山中さん
二人はこれから学んでみたい、やってみたいことはありますか?
岸本さん
最近は、都心への人口集中などの社会課題をまちづくりで解決できないか、ということに興味があります。地方創生など、まちづくりによって人を集めるということに携わってみたいです。
藤岡さん
私は一人旅が好きなので、どちらかというと一人旅支援のような観光に携わりたいと考えていました。でも安全面が不安などの理由で一人旅に踏み切れないという方も結構多いとわかり、そういう状況を変えるためにまちづくりができることもあるのでは?と観光とまちづくりのつながりにも興味が湧いています。
黒瀬さん
二人の視点はとても重要だと思います。私自身「何か新しいことに挑戦する時」のモデル都市の役割も、渋谷は果たしていく必要があるなと感じました。
渋谷はさまざまな価値観、スキル、経験を持った方々が自然と集まってくる街なので、例えば地方の過疎化を解決するための新たな挑戦をしようとした時に、地方では実現できなかったことが、渋谷で種を蒔いて、育った芽や苗を地方にも広げていく動きができたら、新しい成功例ができるかもしれません。
山中さん
街の規模が大きかったり、ユニークな取り組みをするにはやはり相応の資金が必要なので、大企業を誘致するなどパターン化しやすいという落とし穴もあります。その結果同じような街ばかりになっては本末転倒ですから、それぞれの街の個性を活かしながら利益も生み出せる開発を目指したいと改めて感じますね。
岸本さん
私も普段何気なく過ごしている渋谷がこれほど多様な役割を持っているとわかり、渋谷への印象も変わりました。
藤岡さん
渋谷は縁のない街だと思っていたのですが、「目的がなくても行けば面白い街」という視点にハッとさせられました。ただ最先端なだけではなく、多様な人が集まり多様なことに挑戦している街。だからこそ、日本のまちづくりの起点となるような場所なのだと感じました。
山中さん
私も将来藤岡さん、岸本さんのような学生たちがまちづくりに携わるようになったら、きっと面白い街が増えるんだろうなと楽しみになりました。
観光まちづくり学部のテーマは「地域を見つめ、
地域を動かす」。
そこで、在校生が大学を
飛び出しまちの魅力に迫ります!
企画第1弾は國學院大學のキャンパスもある
「渋谷」の魅力を探求します。
渋谷は世界的にも有名な東京の拠点のひとつ。100年に一度と言われる渋谷再開発プロジェクトが始動し、現在も渋谷駅周辺の景色は大きく変化し続けています。今回はその中核となる東急株式会社を國學院大學観光まちづくり学部の学生が取材。開発の裏側を探ります。
國學院大學
観光まちづくり学部 2年
國學院大學 観光まちづくり学部 2年
藤岡 勇樹さん
授業を通じて観光とまちづくりの相互関係に気づき、地域の仕組みづくりを学びたいと考えている。
國學院大學
観光まちづくり学部 2年
國學院大學 観光まちづくり学部 2年
岸本 咲希さん
修学旅行で小説の舞台巡りを提案し、友人に喜ばれた経験から観光を学びたいと考えるように。
東急株式会社 渋谷開発事業部
まちづくり戦略担当
東急株式会社 渋谷開発事業部 まちづくり戦略担当
黒瀬 のぞみさん
幼少期をアメリカで過ごし、日本の魅力を発信したいと考えたことがまちづくりに携わる原点に。
東急株式会社 渋谷開発事業部
開発計画担当
東急株式会社 渋谷開発事業部 開発計画担当
山中 莉奈さん
2013年入社。渋谷スクランブルスクエア第1期の開業準備・運営を経て現在の新規開発部門を担当。
※資料提供:東急株式会社
( 開発イメージは今後の検討により変更の可能性があります。)