まちの樹木さえ
デザインする、
風景計画学という世界

風景を通して地域の物語を豊かに。
そんな社会をつくる人を育てる。

人と自然。その土地の生活や
風土が風景を造る。

今後のまちづくりに欠かせない重要なキーワード。それは「自然との共生」。都心における公園や緑地の役割はどのようなものか、暮らしに安らぎを与える都市の風景とはどうあるべきか。造園や景観といった視点からアプローチする「風景計画学」について、観光まちづくり学部の下村先生にその魅力を語っていただきました。

PROFILE

國學院大學 観光まちづくり学部教授

下村彰男

東京大学農学部林学科卒業、同大学院修了。東京大学大学院農学生命科学研究科教授を経て、現職。日本造園学会理事・会長、日本観光研究学会理事・会長、日本レジャー・レクリエーション学会常任理事などを歴任。また、環境省、文化庁、観光庁などの省庁、東京都をはじめ各地の自治体の、審議会、各種委員会委員をも歴任する。専門は、造園学、風景計画学、自然資源管理、観光・レクリエーション計画。

東京大学農学部林学科卒業、同大学院修了。東京大学大学院農学生命科学研究科教授を経て、現職。日本造園学会理事・会長、日本観光研究学会理事・会長、日本レジャー・レクリエーション学会常任理事などを歴任。また、環境省、文化庁、観光庁などの省庁、東京都をはじめ各地の自治体の、審議会、各種委員会委員をも歴任する。専門は、造園学、風景計画学、自然資源管理、観光・レクリエーション計画。

風景は、人の心理や行動にまで影響を与える。

樹木間隔が異なるイチョウ並木を比較すると、間隔が適度に広い方が開放感を得られやすく、並木でくつろぐ人が増えることが心理調査で分かっている。

現在、東京の日比谷公園では再整備計画が進んでいます。これまで、公園は「都市のオアシス」として外界と切り離すため、緑やフェンスで囲い込んできました。

ところが、現代では人々が自然の中で気軽に集えることが期待されるようになり、内外から見やすくするため、境界域にあるフェンスの撤去や緑を減らすなどの再整備が必要になり、日比谷公園の再整備計画にも盛り込まれています。公園のような地域資源も、求められるものが時代とともに変化しますが、その際に樹木の間隔を変えるといったデザインを工夫することで人の心理や行動に影響をおよぼし、期待に応えることが可能になるのです。

例えば、樹木間が7mと10m間隔のいちょう並木を比較すると、10m間隔の並木のほうが「木の下でゆっくり楽しもう」と考える人が増えることが心理的調査によってわかっています。また、同じ並木道でも、けやき並木では緑が横に広がるシルエットから一列に植えるだけでも緑に覆われた感覚を得ることができ、おしゃれなカフェに似合うなど都市の空間づくりに活用されています。自然をはじめ環境と人の関わりという視点から、これからのまちづくりを考える、それが「風景計画学」です。

自然を見ると、歴史の物語が浮かび上がる。

東京の下町を歩くとプラタナスの木が多くあることに気づきます。これは、関東大震災の名残です。枝葉が大きく茂り、成長が早いことから火災の延焼を防ぐ効果を期待して植えられました。また、台東区・谷中にある「ヘビ道」と呼ばれる道路は、かつて川筋に染物屋があった愛染川の上に造られたため大きく蛇行しています。

このようにまちの記憶をとどめている自然は至るところにあり、まちの歴史や人々の自然との関わり方とともに物語られることで、観光まちづくりの資源となります。自然もじっくり見れば、まちの歩みに触れることができるのです。また、日本各地で山の風景を見ることはできますが、よく見ると山にもさまざまな表情があります。

例えば杉の山林では、杉を建物の構造材として使用するか、お酒や醤油の醸造に使用する杉樽にするかによって杉の育て方が変わるため、地域によって杉林の風景は異なります。川についても、川幅や川の性格によって橋の架け方や川岸の造り方が変わります。昔の人々は地域の自然と合理的に付き合う暮らし方をしていました。そのような自然と人との暮らしの記憶が、今も各地の風景として残っているのです。

まちづくりのための地域資源を掘り起こす。

観光やまちづくりは今、新しい局面を迎えています。かつては、観光といえば、美しい自然や面白い施設など「観光のための資源」が重視されていました。団体旅行が中心であった時期には、観光客は観光バスに乗って観光地を見て回るという「周遊型」の観光が望まれていたのです。その頃の観光では、観光客と地域の人が触れ合う機会は限られていました。

しかし最近では、例えば、農村に泊まり、そのライフスタイルを楽しむといった「滞在型」の観光が増加するなど、観光客の志向が変化してきています。田舎の風景を文化財と捉え、人々の暮らしや生業(なりわい)を体験しつつ、その土地らしい食べ物や風景を楽しむ、地域の人と触れ合うといった観光が望まれるようになってきたのです。

このように地域の特性を掘り起こし、住民にとって価値のある「地域資源:まちづくりのための資源」が観光にも重要であるという観点から、それらを持続的に育てていくことが大きな課題となってきています。「地域資源」とは、その地域ならではの「固有性」や、地域の諸事情と相互に関わる「複合性」といった性格を持っています。

「風景計画学」では、「地域資源」の掘り起こしや、それらの保全・活用について研究をしていきます。

学生には、物事を知り、考える“愉しさ”を。

観光まちづくり学部の学生には、講義を通してさまざまな観点での専門的な知識を学ぶだけでなく、実際に現場を訪れ、地域の人々と触れ合い、自分の肌で感じて考え、さらに教室に戻り、教員や仲間と議論を重ねて学びを深めていってほしいと思います。

このように、学びを通して新たなことを知ったり、考えたりできるということはとても“愉しい”ことです。そして物事を独自の視点で見つめ、考えを組み立てていくことは本当に愉しい作業です。ぜひ、それを味わってほしいと考えています。また、この学部では卒業研究を必修としていますが、卒業研究では、未知のことを知り、考える面白さを存分に味わえます。時には苦しいこともあるかもしれませんが、教員や先輩、仲間と対話しながら思考を深め、時には現場の人々と共感しながら進めていくことも体験できます。

専門の先生方からの指導を受けつつ自分で考え、動き、社会と接点を持つことができる機会が与えられるのです。ですから、ぜひ、粘り強く、あきらめることなく、最後まで主体的に取り組む姿勢で、大学での学びに臨んでもらいたいと考えています。

その他の記事