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言葉を使ったリハビリが難しい人にも有効なリハビリ手法、それが「音楽療法」です。音楽のリズムは脳を活性化させ、メロディーは心を和ませ、ハーモニーは他者への親密な感情を生み出すものです。そんな音楽の特性を意識しながら、音楽療法士は、乳幼児からお年寄りまで、主に心身に障がいをもった人を対象にリハビリプログラムを実施。音楽を聴いたり、演奏したりすることで、脈拍数や体温の変化、緊張の緩和などの生理的作用が起こり、不安やうつ状態が和らげられ、痛みを緩和する手助けにもなると言われています。また、楽器演奏による運動機能の維持や改善、仲間と一緒に合唱・合奏をすることで社会性やコミュニケーション能力が育まれる、情緒が安定する、ストレスが解消されるなど、音楽療法がリハビリ対象者に与える影響は広範囲にわたります。「音楽を楽しむ」だけではなく、それぞれが抱える心身の障がいへ有効なアプローチができることが、「音楽療法」が1つのリハビリ手法として確立されている理由です。音楽療法士は、音楽だけでなく、医学・心理学・福祉学などの知識も備えたうえで、音楽療法のプログラムを計画・実施するリハビリのプロフェッショナル。治療を担当する医師や看護師、作業療法士や介護士などとも連携しながら、1人でも多くの人が生き生きと前向きに暮らせる社会を目指して、日々、多くの患者さんや利用者さんに向き合っています。
日本音楽療法学会では、音楽療法について、「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」と定義づけています。音楽療法士はこの指針に基づき、下記3つの作用を引き出す、音楽を用いたリハビリプログラムを計画・実施します。
・生理的作用
音楽を聴くことで脈拍数が変化したり、身体の緊張がとれたりするなど、直接身体に影響を与えます。
・心理的作用
音楽を聴いたり演奏したりすることで、気分が変化したり、現在もっていない感情が誘発されたりします。
・社会的作用
音楽を通して集団活動に参加できたり、合唱・合奏で共有体験をすることができたりと、人と人との自然なコミュニケーションが発生します。
音楽療法の種類
・受動的音楽療法
クラシックや思い出の曲などを聴くことによって、患者さんや利用者さんの精神の安定、記憶力へ働きかける手法です。歌うことや楽器演奏が難しい高齢者、手足や発声器官に障がいをもった人たち、認知症患者など、誰にでも実践しやすいことが大きな特徴です。
・能動的音楽療法
歌を歌ったり、楽器を演奏したり、リズムに合わせて体を動かしたりと、患者さんや利用者さんと音楽療法士が一緒になって行うプログラムです。脳や心へのアプローチだけでなく、手や指の活動、目と手の動きの連動など、運動機能の維持・改善にも効果が期待できます。
音楽療法士は、上記2つの音楽療法を使い分け、患者さんや利用者さんの状態に合わせたオリジナルのリハビリプログラムを作成します。相手によって症状や抱える問題はさまざまですので、まずは本人や医師や介護士など、周囲のスタッフとしっかり対話をすることが大切です。対象者の状態、興味・嗜好、他のリハビリ状況などを把握したうえで、「音楽療法においてはどんな手法で、何にアプローチしていくのか」を軸に、プログラムを考えます。また、プログラム中の患者さんや利用者さんの観察、効果の振り返り、リハビリ計画の変更・改善を行っていくことも、音楽療法士の大事な役割です。
音楽療法の内容
・歌唱/季節の歌、患者さん・利用者さんの好きな歌、思い出の歌を歌います。
・演奏/ハンドベルなど、簡単な楽器を使って演奏をします。楽器を音楽療法士が自作することもあります。
・即興/歌や楽器演奏で、感情を表現してもらいます。
・鑑賞/音楽療法士の歌唱や、ギター・ピアノなどの演奏を聴いてもらいます。
・創作活動/作詞、作曲、編曲などを行います。
「集団音楽療法」と「個別音楽療法」
対象者がグループになってリハビリプログラムを行うことを「集団音楽療法」、対象者の状態に合わせた個別のリハビリプログラムを実施することを「個別音楽療法」と呼んでいます。プログラムの内容、進行方法、場の雰囲気もそれぞれ変わってくるので、異なる知識とスキルが必要になります。
カウンセリングを行うことも
患者さんや利用者さんのことを深く知るためには、カウンセリング能力も重要になってきます。音楽療法は心の内側からケアをしていくリハビリ手法になるため、表面化している病気やけがの状態だけでなく、相手の気持ち、深層心理に丁寧に寄り添っていく必要があるのです。カウンセリングの基礎は、音楽療法士の養成校のカリキュラムで学ぶこともできますが、現場での臨床経験を通してスキルを磨いていくことも大切です。
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