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応用化学ではこんな研究をしています

あるサンプルの中に特定の物質がどれくらい入っているかを測定できる装置を化学センサーといいます。これで血中の薬の量が測定できれば、適切な量が投与されているかをチェックすることも簡単になりますが、現在は特別な装置がないと測定できません。そこでより手軽に成分を検出できる化学センサーの開発に挑戦しています。(芝浦工業大学 工学部 応用化学科 吉見靖男教授)

※このコンテンツは2018年の取材に基づき構成しています

手軽に成分を検出できる化学センサーを開発中

「どんなタイプの人でも活躍できる学問です」と吉見靖男教授

抗生物質の量を測る化学センサーの開発

ある液体の中に特定の物質がどれくらい溶けているのかを測定する装置を化学センサーといいます。例えば、食塩水の中に溶けている食塩の量を測るのは塩分濃度計という化学センサーです。
食塩のように身近な物質なら装置も手軽に手に入りますが、医療など専門分野で使われる成分を検出するセンサーとなると、そもそも存在しなかったり、とても高価なものだったりします。抗生物質の化学センサーもその一つです。
抗生物質は、体内に侵入した悪い菌を殺すことで病気を治すというもので、怪我をしたときによく処方されるので、知っている人も多いでしょう。
ところが、投与する抗生物質の量が足りず、菌を仕留めきれないと生き残った菌が抗生物質への耐性を身につけてしまうことがあります(耐性菌)。そうなると抗生物質をあとから打っても効かなくなり、体内でどんどん菌が増えて命にかかわる危険性が高まってしまいます。
かといって投与量が多すぎれば腎臓などを悪くしますから、体内に侵入した菌をちょうど仕留められる程度に抗生物質の量をコントロールできなければなりません。それには血中の抗生物質の量を測定し、仕留めるに十分な量が入っているかを逐一調べ、足りなければ足すという手順を踏んでいくのが有効です。
しかし現状、血中の抗生物質量を測定する装置は特別な検査機関にしかなく、結果が出るまでに数日はかかってしまいます。何日も経ってから「もう少し足したほうがいい」とわかっても、すでに耐性菌ができていて、手遅れという恐れがあります。
そこで私たちは化学センサーとよばれる、特定の分子や成分にのみ反応する物質を作りだそうと研究を進めています。これが実用化すると30秒ほどのかんたんな検査で、抗生物質の十分量が測れるようになります。

分子の型を取るミクロの世界のものづくり

とてもミクロな話ですが、石膏に手をぐっと押し当てて手型を作るのと同じように、分子の型を取ると考えるとイメージしやすいと思います。
まず抗生物質の分子の周りに、元になる物質をまとわせ、光を当ててその物質を反応させてプラスチック状の物質に変換させます。その後、中に入っている抗生物質の分子を取り出すと、プラスチック状物質の中に、抗生物質の分子がピッタリ収まる隙間ができます。
この隙間の中に、その抗生物質の分子がピッタリ入ると電流が発生するしくみを作っておけば、雑多な分子が存在する血液の中でも、かたどった抗生物質の濃度に応じた電流が得られます。その電流値を測定することで、血液中の抗生物質の濃度も計算できるというわけです。
最終的には実用化を目指していますから、なるべくかんたんな操作で大量に均質なものが確実に作れるようになるのが理想です。そのために薬品の濃度、光の当て方や距離、均等に光を当てるための試験管の回し方などさまざまな点を工夫しています。
特に抗生物質の分子を型から抜く段階では、なかなかきれいに抜けず苦戦しています。温めたり、酸を使ったり、きれいに抜ける条件をいろいろと試していますが、目に見えない世界の話ですから、電流の流れ方などをみて、きちんと型が取れているかどうか、地道に検証しています。

取材協力:芝浦工業大学 工学部 応用化学科 吉見靖男教

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