国内の都市で街歩きをしながら研究
さまざまな文化のエピソードをたっぷり語ってくれた斗鬼正一教授
ヤップ島の文化に見る「恥ずかしい」という価値観
これまでミクロネシアのヤップ島やニュージーランド、香港などでフィールドワークを行ってきました。観察対象はそれぞれの社会のあり方はもちろん、食事やトイレのありかたからペットの名前の付け方というところにまで及びますから、「テーマは?」と聞かれると困ってしまいますね。それくらいなんでも調べています。
文化人類学では「人間とは」というテーマにいかに迫るかが重要になりますから、多角的に人間を観察しなければなりません。ですから、現地入りすると即座に現地の人々に溶け込み、生活を共にしながらさまざまな場面を観察して、文化の特徴とその背景にある価値観を考察することになります。
研究の好例の一つにヤップ島での「恥ずかしい」という感覚の違いについてというものがあります。日本人がヤップ島に行ってまず驚くのが、女性が上半身裸で生活していることです。日本人の感覚からすると「恥ずかしい」と思う人が多いかもしれない姿ですが、現地の女性はまったく気にしていません。
このことを考える前に、まず「裸」とは何でしょうか。日本人も腕や肩が露出していただけでは裸だとは思いません。人間の体は本来一つにつながったもので、どこかに「肩」や「背中」などと境界線が引いてあるわけではありませんが、人間はそれを分類して、「ここは肩、見えてもいい」、「ここは背中、見えてはいけない」といったルールを決めています。このルールの決め方は本能ではなく、民族がそれぞれ独自に決めています。多くの日本人は肩が見えても気にしませんが、肩が見えただけで「裸」だと認識する民族も世界にはいるわけです。
さて、それではヤップの人たちにとっての「裸」が何かと言うと、「脚が見えていること」です。ですからヤップの女性は下半身を腰ミノで足元まで覆っています。彼女たちからすればスカートをはいて脚を露出する日本人女性は「裸で恥ずかしくないのかな?」と疑問に思うわけです。
動物的な姿を隠したい人間の本性
私たち日本人が違和感を覚える「恥ずかしい」がもう一つあります。ヤップの伝統文化では男女が一緒に食事をしませんでした。これは親子、兄弟姉妹、夫婦でも同じです。ヤップの人にとって異性の前で食事をするのは「恥ずかしい」という感覚なのです。世界の多くの国で、食事は家族がそろって楽しむものと考えられていますから、ずいぶん奇妙な風習に思えるでしょう。
少し話は飛びますが、よく「中国にはドアがないトイレがある」という話を聞くと思います。日本人からすると、「排泄を他人に見られて恥ずかしくないのかな」という感覚になりますが、ヤップの人にとっては、この感覚が食事にも当てはまるのです。
一般的に食事と排泄は逆の行為と思われますが、動物が生きていくうえで絶対に必要な行為という意味では似ているともいえます。そう考えたのが中国やヤップの人で、まったく別の行為と考えたのが日本人です。中国の人は食事も排泄も日本人ほどには恥ずかしいと考えないから隠さず、ヤップの人は食事も排泄も恥ずかしいから隠す、日本人は排泄だけを恥ずかしい行為として隠すわけです。こうして考えると一見、まったく違うように思える文化も、突き詰めていくと「人間の動物的な側面を隠したい」という欲求は共通しています。どうやら人間は、自分も動物なのに、他の動物とは違うと思いたがる動物のようです。
先ほどの裸の例と同じように、人間は行為を分類し、そこに意味付けをして、どうしなければいけないのかルールを決めています。これの集合体が文化であり、社会は文化を元に動いているのです。
異文化の研究を経て、興味は日本文化へ
長年、異文化に興味をもって調べてきましたが、最近は「日本とは」「日本文化とは」というテーマへの関心が深まっています。
日本は一般的に島国といわれるからか、「ここからここまでが日本文化」というきっちりした線引きがあるように考えがちです。しかし、文化の境界というのはもっとあいまいなもので、その観点でいえば日本は島国とはいえないのです。
鹿児島から沖縄、宮古島、台湾、フィリピンと、文化はグラデーションのように徐々に変わっていき、国境線のようなわかりやすい線引きはありません。韓国―対馬―九州北部も同じです。昔は陸路よりも水路の方が交通の便が良かったので、九州北部から朝鮮半島は身近で、文化的な共通点も多く残されています。
また、最近は県民性を取り上げたテレビ番組のおかげで知られるようになりましたが、日本の中でもさまざまな文化が入り混じっていて、決して一様ではありません。そんなあいまいな中で「日本とは」「日本文化とは」何なのかを探求するため、東京、京都、大阪といった都市部を街歩きしながら、考察しています。
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関西大学(文学部)1886年「関西法律学校」として開校。2022年に大学昇格100周年を迎えました。学是「学の実化(じつげ)」のもと、世の中に役立つ生きた学問を理論と実践の両面から学び、世界に貢献できる人材を育成します。私立大学 / 大阪 -
二松学舎大学(文学部)【文学部】と【国際政治経済学部】の2学部を設置、2027年には創立150年を迎えます。伝統に基づく研究と少人数制による目の行き届く指導で、学生生活をサポート。キャリア育成支援には、全学体制で取り組んでいます。私立大学 / 東京
文化人類学とはどんな学問?
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「伝える」を武器に人と組織を繋ぐ。IT企業の人事として輝く「心コミュ」の力
北星学園大学
文学部 心理・応用コミュニケーション学科 卒

「こころ」と「からだ」への理解を深めることで、新たなステージが見えてきました
人間総合科学大学(通信教育課程)
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