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文化人類学のここが面白い

外の文化に触れることで、いかに自分たちが常識にとらわれて頭が固くなっているかを自覚できるのが、文化人類学を学ぶ一つの意義でしょう。日常の中にある「変」に注目し、それをおもしろがれる力は独創的な発想や企画力につながるはずです。さらにその力があると、街歩きや旅行も、日常生活もより楽しめるようになります。(江戸川大学 社会学部現代社会学科 斗鬼正一教授)

※このコンテンツは2018年の取材に基づき構成しています

日常の中にある「変」に注目

「変」をおもしろがれる力が発想力・企画力の源

文化人類学の講義では「ウンチはなぜ汚いのか」ということをまじめに議論することがあります。多くの人は「汚いものは汚い、そんなの当たり前」と断じて、それ以上に深く考えたことはないと思います。しかし、「何がきれいで、何が汚いのか」というのも民族によってまったく考え方が異なります。私たちが常識だと思っていることは、今の日本でたまたまそうなっているだけに過ぎないのです。
最近は社会全体で、独創的な発想や企画力をもった人材を求めるようになってきました。ところが、常識にとらわれて頭が固くなっていたら、独創的な発想は出てきません。外の文化に触れることで、いかに自分たちの常識にとらわれて頭が固くなっているかを自覚できることが文化人類学を学ぶ一つの意義ともいえるでしょう。
日常の中で通り過ぎてしまっている「変なモノ」に注目し、それを柔軟な頭で「へぇ、おもしろい」と思えるかどうか。私はこれを「楽力(がくりょく)」と呼んでいますが、おもしろがれる能力が重要なのです。これは天性の能力ではなく、きちんとしたコツがあり、文化人類学はそれを鍛えることができるのです。
こうした能力が身につくと、旅行の楽しみ方もがらりと変わります。わざわざ観光地やテーマパークに行かなくても、路地を歩いたり、食品売り場に行って商品の並べ方を観たりするだけでも楽しめるようになります。ただの街歩きが発見の連続になるのです。
最近はグローバル対応力ということがしきりにいわれています。そこで多くの人が声高に必要性を訴えるのが語学力とマナー。しかし、より重大なのは文化を理解することです。いくら英語が話せても、インドに行って「この人たち、手で食べてるよ、汚い」と思っていたら、グローバルな対応はとてもできません。違いを「おもしろい」と思える力、それぞれの社会を動かしている仕組み、つまり文化を考察する力を育てるのにも文化人類学は役立つのです。

大学最初の講義で衝撃を受けて文化人類学の道へ

私は元々、新聞かテレビの記者になりたくて、政治経済学部に入りました。それまでは文化人類学という言葉すら知りませんでした。ところが大学に入って最初に受けた文化人類学の講義に衝撃を受けて、文化人類学の世界にのめり込んでしまいました。
講義を担当していたのは、祖父江孝男先生というイヌイットの研究者で、先生がおっしゃるには、イヌイットは客人をものすごくもてなす民族なのだそうです。自分の持っている食べ物を次から次へと分け与え、自分たちの分がなくなっても提供し続け、一方のもてなされる側もそれを遠慮してはいけないというのです。ですから、どんどん食べてしまい、あっという間に食料は尽きてしまいます。すると今度はもてなされていた人が、食料を持ってきてもてなす側に回るのだというのです。
先生が調査のためにイヌイットの村にテントを張って滞在し始めたころ、珍しい外国の客人が来たと村の人たちがこぞって見物に来たそうです。ところがその人たちは一向に帰る様子がなく、食事の時間になっても居座っている。しかたなく村人が見ている前で食事をし始めると、その様子をずっとニコニコしながら眺めている。彼らは寝る時間になっても帰ってくれない。そこで村人の見ている前で寝ることにすると、翌朝起きたときに、まだ同じ顔ぶれがニコニコしながら見ていたというのです。
日本人の感覚からすると非常識なように思えますが、厳しい自然環境の中で生きていくうえで、人と人のつながりを作り出し、助け合うことが何より重要な彼らにとってはそれが当然のもてなしだったわけです。今まで常識だと思って守ってきたことが、実は日本の中だけのもので、世界にはさまざまな価値観があるというのを知らしめるエピソードといえるでしょう。
これほどにおもしろい学問であるにもかかわらず、高校生のころは文化人類学という言葉すら知らなかったのですから、学びたいと思うはずもありません。たしかに高校生が幅広い学問を知り、自分がどの道に進むべきかを見定めるのは難しい面もあるでしょう。ですから大学1年次くらいまでは興味を傾けられる学問を探す期間と考えるくらいがいいのかもしれません。

取材協力:江戸川大学 社会学部現代社会学科 斗鬼正一教授

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