限界地帯の植生がどう変化しているのか、フィールドワークで明らかに
氷河が溶けるとその周辺の植生はどう変化するのか
アフリカ大陸のケニア山(標高5199m)やキリマンジャロ(同5895m)は、赤道直下の熱帯地域にありますが、標高4500mを超えたあたりには氷河があるほどの低気温です。また、ナミブ砂漠は年間の降水量が120mm以下という極度の乾燥地帯で、いずれの地域も生物にとっては限界ギリギリの環境です。
しかし、そんな環境にも生態系は築かれています。先人たちの研究で氷河の手前までは植生があることが知られていましたが、近年は地球温暖化の影響で氷河が徐々に後退していますから、それに伴って植生も変化しているはずです。その実態を調査するために、1992年からケニア山やキリマンジャロ、南米のアンデスなど訪れ、氷河周辺の植生が気候変動の影響でどのように変化しているのか、データを取っています。
限界地帯での調査は苦労の連続だけに成果が見えたときの達成感は格別
氷河の周辺はたいてい国立公園に指定されており周辺に村はありませんから、調査を効率よく行うには標高4500mくらいのところにテントを張って、そこで生活しないといけません。今はプロジェクトチームを組んで行きますが、大学院生の頃は一人で行っていたので孤独な戦いでしたね。
調査は1回につき1カ月~1カ月半。何もないところに杭を打って20m×80mの区画を設け、その中にどんな植物がどれくらい生えているかを一つひとつ調べていきます。今は赤外線で距離を測る装置があるので楽になりましたが、私が調査を始めた当時はそんな便利なものはありませんでしたから、石でメジャーの片方を固定して距離を測っては杭を打つという作業を繰り返していました。高山病で頭もガンガン痛むなかで、これは結構な重労働なんですよ。
そうした苦労を重ね何年も調査を続けてきた結果、氷河の後退に合わせて植生の最前線が上がっていることが明白になりました。「こんなに変わっているんだ」と驚くと同時に、「これは自分が世界で初めて明らかにしたことだ」という達成感を味わいました。
気候と植生、人々の生活の関係性を探る
高山だけでなく降水量が限界ギリギリのナミブ砂漠でも調査を行っています。砂漠地帯では、上流でたくさんの雨が降ったときだけ水が流れて洪水が起きる「ワジ(涸れ川)」に沿って森林ができます。その恩恵を受けて人々が生活しているのですが、洪水が少ないと森林が枯れてしまいますし、洪水の規模が大きいと菜園や家畜が流される被害を受けます。洪水と森林と人々の生活は、微妙なバランスの上に成り立っているんですね。その関係性が調査の対象です。
こうした調査を続け、植生と気候環境の関係が見えてくれば、気候環境の変化から植生の変化を予測したり、植生の変化から気候環境の変化を認識したりすることもできるようになるでしょう。
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