人々が社会生活を行ううえで不可欠な社会基盤施設(社会インフラ)を作る
社会生活に必要な基盤を作る土木工学
普通に生活しているとあまり意識することはありませんが、人が快適で安全な社会生活を送るにはさまざまな設備が必要です。例えば、蛇口をひねれば水が出てきたり、レバー一つでトイレを流せるのは上下水道が整備されているからで、その水を引いてきたり処理したりするには、河川やダム、浄水施設の整備が必要です。
また、現代生活には欠かせない電気やガスも、発電所を作ったり、電線やガス管を配備したりしないと使えません。さらに、どこかへ出かけるとなれば、道路を通らなければなりませんし、電車に乗ったり、橋を渡ったりすることもあるでしょう。
こうした人々が社会生活を営むうえで必要不可欠な設備、つまり社会基盤施設(社会インフラ)を作るための技術が土木工学です。
具体的なもので言えば、道路・鉄道・港湾・空港・橋梁・トンネルといった交通網、ダム・堤防などの河川関係・上下水道・浄水施設といった水回り、発電施設、通信施設、廃棄物処理場など、多岐にわたります。近年は快適さに加え、安全という観点が重視されるようになり、特に日本では災害に強いまちづくりが望まれるようになっています。こうした部分を担うのが土木工学です。
大学の学科名では伝統的に「土木工学科」が使われてきましたが、近年はこうした「まちづくり」という視点を強く意識した「都市○○工学科」「環境○○工学科」など、「土木工学」という冠が使われない学科名が増えています。一見すると土木工学だとわかりにくいのですが、教育内容を見ると「土木工学+α」と形になっていることが多いので、よく確かめましょう。
さまざまな現実問題に折り合いをつけていく学問
人々はさまざまな自然環境の中に街を作って生活していますから、その自然とどう折り合いをつけるかが土木工学の大きな課題です。そこにはシビアな現実の壁が立ちはだかっていて、それをどうクリアするのかが土木工学の醍醐味です。
例えば、川の氾濫に備えて河川を整備するとします。なるべく川幅を広くして、大きな堤防を作れば安全にはなるかもしれませんが、川幅を広くするには周辺の住民に立ち退いてもらわなければなりませんし、堤防を作るためのお金が無尽蔵にあるわけでもありません。現実的には、危険性やどれくらいの範囲で被害が出るのかを予測し、優先順位をつけるなどして、さまざまな条件のバランスが取れるところを探さなければなりません。
さらに、橋を架けるとなれば、地盤の固さや川の流れは場所によってそれぞれ違いますから、規格品を作って架けるというわけにはいかず、その状況ごとに合わせたものを毎回、一からつくらなければなりません。土木工学のものづくりはすべてが一点ものなのです。
中には現代の科学技術では地盤の特性がうまく解明できないこともあります。それでも生活に支障をきたすとなれば橋を架けざるを得ません。実は理論が完全に解明されていないとしても、土木工学には古代から現代まで、世界の各地で蓄積してきた数多くの事例があります。それを駆使して、「こういう条件下なら安全だといえる」と、わかっている範囲で折り合いをつけて作られているのです。
それだけに土木工学のエンジニアには、幅広い分野の知識と、状況によって適切な判断や工法の選択ができるだけの引き出しの多さが求められます。それでも一人だけですべての分野をカバーすることはできませんから、土木工事は多くの人がかかわってチームプレイで進めていくのが基本となります。「有名な建築家」はいても、「有名な土木家」がいないのはこういった理由です。一人ではできない仕事なので、誰か一人だけが特別に名を残すということもないのです。
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