浄水技術で安全な水を
安全な水を利用できない8億人を救う上水道設備
日本では蛇口をひねれば当たり前のようにきれいで衛生的な水が出てきます。そのまま飲むことができますし、炊事・洗濯・掃除・手洗い・入浴など生活のあらゆる場面で安心して利用できます。
しかし、これだけの水を確保するにはそれ相応の設備が必要です。近年は自然災害が増え、断水を経験したりニュースで見たりする機会も増えましたから、上水道を整備することがどれだけ重要なことかも実感できることでしょう。
さらに世界に目を向けると、水道設備がなく、衛生的な水を利用できない人がアジア・アフリカ地域を中心に約8億人もいます。その人たちは安全な飲み水を確保することができず、また衛生的なトイレを利用できない場合もあって、毎日5000~6000人の乳幼児たちが命を落としているという実態があるのです。
これは国際的な課題にもなっていて、国連が2030年までに解決すべき国際問題として掲げたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)にも、「安全な水とトイレを世界中に」という項目が並んでいます。
私たちが当たり前だと思っている水環境は、上水道や下水道、浄水施設といった水道設備に関する高度な科学技術に支えられているのです。私の研究では、そんな水環境の整備に関するもののうち、上水道にかかわるテーマを扱っています。
上水道についてさまざまな視点で研究する伊藤禎彦教授
微生物リスクと発がんリスクのバランスを考えた浄水技術
水道水の元になっているのは川や湖などの自然界の水ですが、そこには細菌などの微生物がたくさん含まれており、無処理のままにそれを飲むことはできません。ゴミを取ったり、ろ過したり、塩素消毒をしたりして、安全な水を作り出しているのです。
ところが、微生物を死滅させればそれで安全かというと、そう単純な話ではありません。たしかに塩素によって微生物は死ぬので、そのリスクは減少しますが、水には微生物以外にも雑多な成分が含まれており、中には塩素に入れることで変化を起こす成分も含まれているのです。その一例がトリハロメタンという発がん物質です。これは自然界の水には存在しない物質です。つまり、塩素消毒には微生物リスクを下げる一方で、発がんという別のリスクを生み出すという二面性があるのです。
もっとも発がん物質といっても、摂取すればただちにがんが発症するわけではなく、少量であればまず影響はありません。では、人体に影響がない程度のトリハロメタンの量はどれくらいで、微生物の量はどれくらいなのでしょうか。それを調べ、微生物リスクを下げつつ、発がんリスクの少ない安全基準を策定し、ちょうどいい塩素の注入量をコントロールする必要があります。そこに向けた研究を行っています。
環境問題のリスクは、あるところを下げると、別のところでリスクが発生するというケースがよくあります。すべてのリスクをゼロにするのは現実的ではありません。いかにうまくバランスを取るかが重要なのです。
そのためにいろいろなところから水を採取してきて成分を調べたり、大阪の浄水場の一角に実験プラントを造って水質の検査をしたりして、安全評価の基準策定やより安全な水を効率的に作る方法を探っています。
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